猫の口内炎
人間と同様に動物もお口の健康を維持することが元気で長生きするためにも大切だということがわかってきています。人間のように毎食後の歯磨きは難しい場合が多いので口内環境のケアと異常が生じたときの早期治療は非常に大切です。
猫ちゃんは環境の変化に敏感で、病院に来るだけでも非常に緊張してしまいます。
ジョン動物病院では猫に優しい医療を提供できるキャットフレンドリークリニックの認定病院です。

更に15:45~16:00の間は完全予約制の診療時間を設けておりますので他の人間や動物が苦手な猫ちゃんはご利用ください。
ここでは、猫ちゃんに多く見られる病気を紹介します。
当院が認定されているキャットフレンドリークリニックについてはこちらをご覧ください。

最も目立つ症状は口の痛みです。人間の口内炎も痛みがありますが、猫の場合は食事が食べられなくなったり、顔を触られるだけでも逃げ出すほどの強い痛みを生じます。また、口の不快感からイライラして攻撃的になる子もいます。
口を開けるだけでも痛いのであくびもできなくなることもあります。
その他にはヨダレや口臭、歯ぐきからの出血なども見られます。
食事をうまく食べられなくなった結果として痩せてきたり、毛づくろいもできなくなるので毛艶が悪くなったり毛玉も出来たりします。
軽度の症状
- 流涎(よだれが出る)
- 口腔内の潰瘍
- 出血
- 毛づくろいができない
- 毛艶が悪い
- 口臭が強くなる
- やわらかい食事を好む
- 食欲不振
痛みを気にして、しきりに患部(口のあたり)を手でこすることから、手の部分がよだれでベトベトになることもあります。
重度の口内炎
- 潰瘍
- 出血
- 強い痛み
- 食欲が全くなくなる
口内炎発症中の食事
猫ちゃんの歯肉口内炎は強い痛みが生じるのでドライフードよりウェットフードの方が食べやすいようです。また、冷蔵庫から出してすぐの冷たいものや室温のものより人肌程度に温めたもののほうが刺激が少なく食べやすい場合が多いです。
猫ちゃんは食に対するこだわりが強く、特定のフードしか食べない子もいますのでその子にあったお食事の与え方を工夫してあげる必要があります。
原因(細菌・ウィルス・内臓疾患・歯周病)
歯肉口内炎の原因は完全に解明されているわけではありませんが、猫カリシウイルス、猫エイズウイルス、猫白血病ウイルスなどのウイルス感染症や免疫不全の片方、あるいはその両方が相互作用をすることによって引き起こされると考えられています。
細菌が原因
- バルトネラ
- 猫クラミジア
- 猫マイコプラズマ
- パスツレラ
ウィルスが原因
- FIV(ネコエイズ感染症)
- ELV(ネコ白血病)
上部気道ウイルス
- 猫カリシウイルス
- 猫ウイルス性鼻気管炎ウイルス(ヘルペスウイルス)
内臓疾患が原因
- 腎不全
- 糖尿病
- 副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)
- 炎症性腸疾患(IBD)
歯周病が原因
歯の周囲にたまった歯垢や歯石の中の細菌によって、歯茎などの歯のまわりが炎症を起こす病気です。重度の歯周病、歯肉炎になることで、口内炎をも引き起こしてしまう
検査
口を開けて中を見てみると重度の炎症があるので身体検査だけでもこの病気を疑うことが出来ますが、血液検査やレントゲン検査、ウイルス検査などを行って歯肉口内炎であること/他の病気が隠れてないことを確認して診断を行います。
- 問診
- 口腔内の視診
- 血液生化学検査
- レントゲン検査

薬による治療(内科治療)
治療法には内科療法と外科療法があります。
内科療法は痛み止めや免疫抑制剤、抗生剤などのお薬やサプリメントを用いて歯茎の炎症を和らげます。
症状が軽い場合は内科療法で付き合っていくこともできますが、歯肉口内炎は強い痛みが生じるので投薬が困難な場合があります。 猫ちゃんは口の痛みがなくてもお薬を飲むのが苦手な子が多いので投薬が困難な場合は外科療法など他の選択肢をを検討することになります。
鎮痛剤
非ステロイド系消炎鎮痛剤やステロイド剤、オピオイド系鎮痛剤を使用します。 それぞれの薬剤にメリット、デメリットがありますのでその子の状態に適したお薬を選択します。
抗生剤
細菌の二次感染を起こしている場合は抗生剤を使用することもあります。 歯肉口内炎の原因は細菌感染ではないことや、薬剤耐性菌が発生するリスクもありますので、安易な抗生剤の仕様には注意が必要です。
インターフェロン
免疫を調整する作用があります。 注射や口腔内への直接投与で使用します。
ラクトフェリン
抗菌、抗ウイルスなどの作用が報告されているタンパク質です。 副作用がほとんど無く、多くの猫ちゃんに安全に使用できます。
歯石除去・抜歯(外科治療)
外科療法ではスケーリング(歯石除去)や歯を抜くことで口内環境を整えます。
猫の歯肉口内炎は難治性・再発性であることが多く、これらの方法を組み合わせて治療を行います。現在のところ最も治療成績が良いと考えられているのは全額抜歯・全臼歯抜歯といわれる処置でその名前の通りすべての歯、もしくはすべての奥歯を抜く方法です。非常に乱暴な治療のように思えますが、この治療を行うことでおよそ80~90%の子に症状の改善が認められます。
治療が遅れると体全体が消耗しまい、適切な治療を行えないこともありますので定期的にお口の中をチェックすることが重要です。
全臼歯抜歯
- 臼歯のみを抜歯
- 口内炎の治癒率は60%
歯石をとるだけで口の中をきれいにできればよいのですが、中には歯周病が進行しすぎて歯がグラグラの状態になっていることもあります。こういう場合には抜歯を行い、問題となる歯ごと原因を取り除く
全顎抜歯
- 歯を全て抜く
- 口内炎の治癒率は90%
歯石除去
口内炎の原因が「歯周病」ということがわかっていれば、歯石を除去して口内をきれいにし、原因を除去します。
よくある質問 Q&A
- はちみつが良いと聞きました
- 人間の口内炎でははちみつの治療効果が報告されていますが、猫の歯肉口内炎に対する有効性はわかっていません。
- 口内炎はうつりますか?
- 猫の歯肉口内炎は単一の原因ではなく、複数の要因が関与しているので単純に感染すると言えるものではありませんが、悪化要因である猫エイズや猫白血病ウイルス感染症は他の猫ちゃんに感染するため注意が必要です。
- 歯石がつきにくい食事、フードはなんですか?
- ヒルズから歯垢、歯石の蓄積を低減させるt/dというフードが発売されています
- チュールを食べさせても大丈夫ですか?
- 大きな問題はありませんが、一般的にウェットフードはドライフードと比較して歯石が付きやすいと言われています。
- 痛みどめをすすられました
- 歯肉口内炎は強い痛みが生じるため痛み止めの使用は推奨されています。
ただし、痛み止めには副作用もあるので使用する際は血液検査などのモニタリングなどを行っていく必要があります。 - 乳酸菌の接種を勧められました
- 乳酸菌の有効性は期待されていますが、現時点ではどの程度効果があるかはわかっていません。
- 市販薬で治りますか?
- 症状を軽減する可能性はありますが、市販薬で治すことはできません。
- 漢方薬はありますか?
- いくつかの漢方薬が有効ではないかと期待されています
- マウスケア用品の使用はおすすめですか?
- デンタルブラシを始めとしたオーラルケア製品は健康な口内環境を維持するために推奨されます。
ただし、これらの製品で歯肉口内炎を治すことはできません。 - ワクチンはありますか?
- 歯肉口内炎に対するワクチンはありません。
悪化要因である猫エイズや猫白血病ウイルス感染症に対するワクチンはあります。 これらはWSAVAのガイドラインでノンコアワクチンに分類されており、歯周病の予防を目的としたワクチン接種は推奨しません。 - 歯のケアに慣れさせる方法はありますか?
- まずはおやつをあげながらお口の中を触る練習から始めていき、なれてきたら少しずつデンタルフロスやデンタルブラシなどに進んでいくことをおすすめします。